中国横断旅③ (ウルムチ)
~5日目~ ウルムチ見学
夜行列車は新疆ウイグル自治区に入った。遅い朝焼けが寝台に射し込んで目を覚ますと、列車はもうあと60分ほどでウルムチに到着するところだった。
軽快な音楽と共に車内放送が流れる。
「皆さま、おはようございます。間もなくこの列車はウルムチ駅に到着します。この先もよい旅を。社会主義核心価値観、富強 民主 文明 和諧 自由 平等 公正 法治 愛国 敬業 誠信 友善。」といった具合だ。*1
駅の到着ターミナルを出ると、いきなり武装警察の黒い車両が停まっていてさすがに緊張感があった。彼らの実施する金属探知機の検査をしないと街に出られないようだ。
並んで検査を受けたので、早速バスに乗ろうとする。ここにも金属探知機による検査がある。あっ、逆方向に乗ってしまった!すぐに正しい方向に乗り換える。金属探知機。街を散歩する、このお店面白そうだな。はい金属探知機。
……全くなんなんだこの街は!!と大きめの声で呟いてしまった。何をするにも金属探知機と無数の監視カメラ。100m毎に「防爆」と書かれたゼッケンの公安がいるし。そして10m毎に書いてある社会主義核心価値観。これは凄い。迫力がある。ここは1984の世界なのだろうか。
日本を出る前、「新疆に行く」といったところ、結構いろいろな人に心配された。治安は大丈夫なのか。しかし、多分これなら大丈夫だ。国家権力を敵に回さない限りは。犯罪をする隙が見当たらない。ある意味ものすごく治安がいいのだ(しかしそれが正しい街のあり方なのかは全く別だ)。
公安や特警に見咎められることを恐れ、ウルムチの写真は少なめになってしまった。
ウイグルの雰囲気を求めて、南側地域の国際大バザールにやってきた。地下鉄1号線 ニ道橋駅のバザール周辺は住民もウイグル系が多く、雰囲気が違う。レストランに入り、アラビア文字のメニューがわからずしどろもどろしながら注文するとウイグル風チャーハンが出てきた。僕は麺を頼んだつもりだったのだけど。
やっと少し落ち着いたところで「新疆博物館」に行ってみることにした。実物のミイラを観ることができることで有名だ。ところで、この博物館は入場料が無料だ。これはどうも怪しい。中国の有名観光地はどこも物凄く高いイメージがあるのに無料ということは…。
入ってみると、ああ、やはりこれだ。
まっ赤の共産党成分100%である。北京の天安門で思い知ったように、国費で建っている施設は無料で入れるのだ。
この博物館自体、「共産党のお陰で、新疆は経済発展してきた」というプロパガンダなのだ。その証拠に、博物館の展示内容自体も、古代より漢民族(張騫とか甘英とか)が西域に流入し民族平定したことがこの地域の発展の基礎になった、という主張が目立つものだった。
トルキスタンと漢民族の交流には正負含めて多面的な要素があるように思うのだけど…と複雑な気持ちで英語の解説文を読んでゆく。もやもやする。ウルムチに来たなら、この地域の実情を知るためにもここは行った方がいい。そして、解説をよく読み、それを鵜呑みにせず、理解しようと努めなければならない。
名物のミイラにも出会った。サブカルっぽい服装のお兄さんが一生懸命ミイラの写真を撮っていたが、あまり趣味のよい行為だとは思わなかった。一言も話していないが、なんとなく彼は日本人であるような気がした。
博物館の近くには無印良品がある。無印良品でたまごボーロのようなものを買った。無印良品のヘビーユーザーでも、ウルムチ店まで行った人はなかなかいないだろう。
なんだか疲れてしまった。ウルムチは宿泊することなく次へ進むことにした。駅に戻り、また金属探知機。高層ビルの奥に、夕焼けで燃えるような遠くの山並みが見える。写真に収めていたら特警3人に呼び止められてしまった。盾を持った一人目、銃を持った二人目、さすまたを持った三人目。今撮った画像に彼らが写っているのではないかというわけだ。しかしそんなことではもう慣れてしまって、これくらいでは緊張しない。ウルムチの日常にだんだんと順応してゆく。
23時20分、ここからあと20時間ほど列車に乗り、最終目的地のカシュガルに向かう。
*1:https://dailyportalz.jp/kiji/170825200511 社会主義革新価値観がどれくらいあちこちにあるかというと、この記事を読んでもらうのが一番早いと思います。